朗読劇 ドラゴンギアスAnother〜再生のための物語〜 を観てきたよ

衛生兵エリック「人は絶望したときに死ぬんじゃない、希望を失った時に死ぬんだ!」


『絶望とは、希望のない様子を指す。英語ではディスペア。』
違います!みたいに言ってるけど同じこと言ってんジャーン。
ドラゴンギアスは全体的にこういう感じのシナリオでした。

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先に良かった点を…
・物販の「アクリルスタンド」がランダムじゃない
アクスタってランダムにせずに売ることが出来るんだ!と思うくらい、ランダムに販売されることが多い商品なので選んで欲しいものを購入できるという方式は本当に素晴らしかったです。嬉しい!原作のボードゲーム持ってないけど軽率に買っちゃう!
サイズは小さいけど、コンセプトがゲーム盤の駒だから仕方ない!不問!
と思ったら誤植されてて笑っちゃった!ご連絡くださいってフォームの一つも用意されてないの草。
用意してくれた

・「マイクスタンドは墓標」
目新しい事では無いんですが、時間軸が進むまで死んだキャラクターの立ち位置のマイクスタンドはその場に残るのは画として良かったです。死んだ後もキャラクターが居たということを示していて良い感じ。

・阿部快征氏
アドリブ楽しかった、しゃがんだところで犬を拾った回が好きでした。
アドリブって本筋を邪魔しないのが大前提なのですが、過剰に本筋無視してブッ込む方が簡単だと思います。その点、阿部氏のアドリブは挿入タイミングも塩梅も良かったです。楽しい〜!

・スクリーンで映像を使う「魔女の攻撃」やドラゴンの「見た目」
非常に視覚的にわかりやすくて良かったです。助かります。他にも映像を使う場面は塩梅が良かったです。過剰な映像と言うこともなく、画として共有しておいた方がわかりやすいものをちゃんと選びとって映していたというか。

・平和ボケ
平和ボケしてる人達のお話なのですが、ストーリーの中で彼らを「平和ボケしている」とは表現していないし、登場人物たちは必死で生きています。
真剣に生きているというパワーは最後までありました。 
観客の受け取り方としては平和ボケ一択ですが、真剣に生きてる姿として最後まで描いているのは本当に良かったです。真剣なんですよ、本人たちは。


以上です。この先は率直な、歯に絹着せぬ感想です。
台本とか購入しなかったので、本当に観たままの記憶なので記憶違いしてたら申し訳ございませんっ

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この作品は対戦ボードゲームが原作です。
つまり原作にはストーリーやキャラクターの人格は有って無いようなもの。
そこからの脚本起こし、観客への世界観説明を挟まなければいけないのはさぞ難儀だったでしょう。

「旅人」という登場人物がいるのですが、狂言回しのような存在で世界観説明をしてくれるのかな?と最初は思いました。
正体は未来のエリックなので、登場するシーンがかなり限定的。地の文担当かな?と思ったんですが、まぁちっともそんな仕事はしない。ていうか地の文がそもそもめちゃめちゃ少ない。狂言回しとして機能してるかと言うと…最初だけでした。

ざっくり登場人物(役目)を説明すると

魔女:対ドラゴンの要の巨大ロボを動かす。魔力が高いと選抜学校を飛び級して戦場デビューになったりする

騎士団:選抜学校各科を主席で卒業した7人で1部隊構成。お仕事は魔女の操縦する巨大ロボがドラゴンを攻撃をしやすいようにドラゴン及び人型サイズのドラゴンを撹乱すること

巨大ロボ:ヘクスギアス。操縦できるのは魔女だけ、修理修復が出来るのは騎士団の工兵(ジップ)だけ

ドラゴン:空から降ってくる。巨大。火を吐く

人型サイズのドラゴン:ドレイク。人型サイズで知恵がある。騎士団を攻撃してくる

巨大ロボ(魔女)+騎士団 vs ドラゴン+人型サイズドラゴン の構図になります。

世界観説明のおかげで原作ゲーム初心者・未プレイにも優しい…優しいは優しいんですがわかりやすいかと言うと別問題で、とにかくわかりにくい。
ストーリーが進んでいくと色々おかしくい点が出てきてそれがやたら気になるというシナリオでした。


例えば旅人が『ドラゴンと闘って数百年、消えた衛星都市は数百…なんと帝国の半分!』と重々しく語るのですが…

『数百年もドラゴンと闘ってるのに消えた都市少なくない?』

ドラゴンの脅威や規模感がイマイチ伝わってこない。
ドラゴンは空から降ってくるらしく、しかも数十年に一度らしいです。降ってこない間は実に平和なもののようで、たまたまドラゴンが降ってきてしまった世代のお話。…天災みたいなものかな。
騎士団は国費の無駄遣いって毎年予算会で叩かれてるだろうな…そういう意味では家系三世代で騎士団になっている騎士長のヘンリーが「政治の世界も考えた」みたいな発言をしているのは納得でした。いざと言う時の防衛費はその場だけの話じゃないもんね…

今作の騎士団は非常に平和ボケしている世代で、主人公の衛生兵エリックの「したいこと」も、
「病気や怪我で困っている人を助けたい」であって、お医者さん寄りの気質。ドラゴンを根絶やしにしてやる!打倒ドラゴン!のような雰囲気はないです。

襲来するドラゴンは、対ドラゴン兵器(巨大ロボ)を倒すと何故かその場で力尽きてしまうそうです。これは「何故か」で巨大ロボの機能に依るものではないようです。
更にドラゴンは死ぬと体躯から毒を吹き出して襲撃した都市を数百年間汚染するとのこと。

…あれ?ドラゴンて普通に倒せたらどうなるんだろ?毒出さないのかな?…私はゲップーとか魔家四将の「腐ってしまェェェ」を思い出してましたが、そこの説明はない。

ドラゴンとの戦いに対しての危機感や急務感が共感できないし、なんでこんなアナログな闘い方しか彼らはしていないのかという違和感でいっぱいです。
「平和ボケしているよね、人類」みたいなのはコロナ禍への暗喩なのかもしれないですけど、本当にもうそんなの見飽きていて辟易しているんです。トレンドって感じですね。

更におかしいんですが、魔女のレナは
「役目を終えたら(残った魔力を活かして)ロボの部品をつくる仕事に就いて一生を終えると聞いている」と語るんですが、龍戦争における魔女の帰還率は0%と原作サイトに記載されています。

このドラゴンとの戦争「数百年」続いているんですよね…
部品作りに従事しました、て戦場上がりの魔女いない筈では。
そも、対ドラゴンに魔女はかなり重要な役目の筈なのに選抜学校があって主席が騎士団付きの魔女になる…悠長なんですよね、魔女は人間とは異なる、とか言ってるんですが正直どう生まれてくるのかよくわかりませんでした。どういう存在なの?

一応「人型サイズのドラゴン」が現れちゃってもうタイヘーン!みたいなイベントが数百年のドラゴンとの戦争中に起こってたらしいんですが、そもそもドラゴンを脅威と思って数百年戦っている割に「城壁の高さが全然ドラゴンを防げる高さじゃない」とかも言ってて…

人類サイドが圧倒的にアホなんです。

アホが平和ボケしているので「必死に戦ってます!」というアピールがより滑稽に感じました…歴史から何も学んでないのか、そりゃダメよね。

更に、数百年も闘ってる筈なのに対ドラゴン兵器の巨大ロボと魔女の関係(ロボと引き離されると魔女死んじゃう!)を騎士団選抜学校の主席で形成されている騎士団員が『知らない』
帝国から騎士団に隠された真実!とかでもなく(そういう描写はない)、レナが普通に教えてくれるので「なんで騎士団が知らないねん」と。この無知のせいでラストに魔女は死にます。滑稽で恥ずかしい。

シナリオのガバガバな部分が引っ掛かって、物語の面白さを感じる前に気が漫ろになりました。

本作「朗読劇」なのですが「地の文」を担うのは主人公エリックだけ。
文字にすると「まぁそう言う演出もあるか」なのですが、エリックは自分が関わったシーンの地の文しか充てがわれていない上に、エリックも他のキャラクターがいるシーンでは基本的に会話でストーリーを動かしていきます。

…なろう系小説ってこういう感じなのかな

なろう系読まないのでわからないんですが、ずーーーーーーっと会話が続くので、朗読とは?地の文とは?という感じでした。
延々とキャラクター同士の会話が続いて、そこでストーリーを動かすシナリオはとにかく作りのダサさが気になります。
俳優陣も声優陣もキャラクターとしての役作りは全うしているので、本当にシナリオがガバガバ過ぎてクソなこと以外は良いんです、しかし朗読劇なのでシナリオのガバさは致命的。

このコロナ禍のご時世、観劇は高級な趣味になってしまいました。
チケット代が純粋に高い。
見合う作品で有れば全然苦では無いのですが、…見合わない作品は、本当に贅沢なことをしてしまったなぁと思うばかりです。
贅沢な嗜好品、貴族のお戯れ。
貴族じゃないので、チケットは持ってる枚数から増えませんでした。
敢えて言うなら、俳優・声優陣は本当に普通に頑張っているのでそこに観に行く価値があります。
でもその真剣な芝居をシナリオが水をさす、それがドラゴンギアス。



吐き出しておかないと気持ちが悪いので、この先も違和感凄かったぜ!という感想を書きます。

・主人公の『衛生兵』エリック
衛生兵のくせに仲間が致命傷を負った場面で
「応急処置はした、安静にしてれば大丈夫」と曰う。
嘘をついてまーすという素振りがない上に、すぐに「いや俺もう助からない、わかる」と重症の仲間に返されているのでエリックが無能に見えるんです。
このシーンでエリックは「お前は優しい奴だな」と死に瀕した仲間に言われるんですが万が一エリックが無能じゃなく大丈夫だよ安らかに眠れという意味で、応急処置で安静にしとけと言ったのならば「嘘が下手なやつだなぁ」て言った方が良かったよね。

「愛している」ことを「僕は君を愛しています」と書いてしまう文章は死んでると思うのです。
月が綺麗ですねと書けとは言わないけど、ドラゴンギアスは優しい奴を優しい奴だなと言っちゃう系なんだな、と駄々冷めポイントでした。

死ぬ芝居自体はワクワクするんです。
死ぬというのは絶対に体験したことがないことから作られる芝居なので非常に興味深い。でもシナリオの下手さがチラついて邪魔し過ぎる。
しかもこのシーン、仲間たる騎士団員が目の前で事切れそうなのに騎士長ヘンリーは「意識は戻ったな、俺は(前線へ)戻る」と、エリックは一応引き止めるような素振りをするんですが「何も言うな」と本当に立ち去ってしまうんです。
仲間の死に際にそばに居てくれない騎士長、ヒトの心がないのか?(というような冷酷なシーンはなく、どちらかと言えば団長はチームワークや円滑なコミュニケーションを大事にしていたようなシーンしかなかった)

この時死ぬのは重装兵クルスなんですが、エリックはクルスの死について
「僕は仲間の死を看取るために衛生兵になったんじゃない!」と悲壮に叫ぶんです。
舐めとんのか、と。
生も死も等しく扱えないのなら、向いてないから辞めとけとしか。
しかしこの程度の認識の奴が『主席』で選抜学校を卒業しているので…まぁ選抜学校が如何程の人数で騎士団目指してるかまでは語られてないしね、選抜に選ばれる倍率やべー!とか言ってた気がするけど、2人しか居ない中から1人しか選ばれない、とかかもしれないしね。平和ボケおそロシア

・対ドラゴンの戦地へ赴く際、騎士団員は手紙を書くのが慣習になっている
遺書です。大事だね。しかし恐ろしいのは平和ボケ世代「書くことが思い浮かばない」とか言い出す。
そこそこ書いていたエリックですが、母への近況報告と感謝という感じでこれ受け取るのは戦死した後の遺族だっていう意識が実に薄っぺらい。
騎士団員達は「生き残って自分の口で伝えようぜ!」とか言い出します。ドラゴンと数百年戦い続けてて、その中でこの慣習が生まれてるんだから先人達はきっとみんな何も残せず呆気なく死んだんだろうな、という想像力が団員達に無い。
戦闘で真っ先に死んだ重装兵クルス「みんなに伝えておいてくれ…」
手紙書いておけば良かったね。

重装兵クルスについては「無口」というキャラ付けがあるので一幕のセリフは「あぁ」「そうだな」が殆どでした。目配せ一つ、抑揚一つにもちゃんと芝居があるから…まぁ、良いんだけどさ…。
朗読劇でこの地の文の無さで「無口」ていうキャラ付けは辛いなーて思いました。でもクルスはちゃんと死に際のシーンが有ったのでその点はかなり良かったです、ラッキー!

・工兵ジップ「新しいヘクスギアスを作りたい」
新しいヘクスギアスはもう数千年作られてないらしい。
…新型が作られてないってこと?ドラゴンと闘う前から巨大ロボ存在してねぇか?…何の為に?
ガバガバかよ、台無しだよ…。

・喧嘩の絶えないペア「そう言えばこないだ貸した金のことだが…」「今度返すよ!」
古典かよ、というベタベタの死亡フラグ。ダサいんだコレが。

・「ねぇ知ってる?人の本音は最後の言葉にでるんだよ」
エリックがやたら繰り返すセリフなのでテンドンかな?と思ったんですがオチが無かった。滲み出る「こう言うセリフ言うとそれっぽくてカッコイイよね」みたいな…雰囲気だけで意味がないセリフでがっかりでした。


・騎士長だって初陣
騎士長ヘンリー「この戦いで終わりにしよう!子孫達が安心して暮らせる未来のために」
天災の如く突然降ってくるドラゴンなんだから「この戦いで根絶やし」とか出来ないよね…
(仲間が死んで行く展開)
騎士長ヘンリー「今日を生きる戦い、明日を生きる戦いをしよう」 
死人が出た事で目標が矮小化する騎士長、初陣だもんね、ヨシヨシ。

・魔女は魂でつながるヘクスギアスと離れると魔力を失い、命を失う。
衛生兵エリック「聞いてない」
何百年もドラゴンと戦ってるのに?知らないとかある?魔女は魔力と生命力が地続きっぽいことは都度都度言われてるんですが…ヘクスギアスと離れると一気に老いてしまうらしい。なんか展開が渋滞してる。
この場面も「魔女さえ生き残れば再び騎士団を編成してドラゴンに立ち向かえる」という前提の下の作戦で、いよいよダメだって時は魔女連れて逃げろとエリックは仲間から託されているんですが、結果として魔女はエリックの行為により死にます。まぁ帰還率0%だしね、馬鹿なの?

・魔女「悲しいってこういうことなのかな」
魔女は感情が死んでるらしいのですが、ヘクスギアスと離れた事で感情が戻ったらしいです。
エリックは「これは悲しい物語じゃない!再生の物語だ!」と魔女の死に際に語るんですが…
この後、自分が戦地でしていた体験を(恐らく)物語として幼い魔女に語っている未来のシーンになるんです。
ここで狂言回しの旅人はエリックの未来の姿でした、とタネ明かし。
再生はリビルドというよりはリピートする物語って感じなんですかね。突然のタイトル回収に寒くて風邪をひきそうです、ていうか回収はしてないな。なんか言い出しただけ。


・明確に死が描写されないJB、マシュー、騎士長ヘンリー
ガバすぎない?まぁ死んでるんでしょう。悲しいね。ちゃんと書きなよ…。


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二幕は上記違和感の大渋滞でしんどかったです。
演劇において脚本って本当に大事なんだな、と改めて痛感しました。
私は演技の妙や雰囲気、いっそ体感でカバーされていれば「細けぇこたぁいいんだよ!」で楽しめるタイプなんですけど、この作品は楽しめるレベルの脚本ではなかったです。

インタビュー読んだのですが、作り手が楽しんだ作品だったんだな、と思いました。完成品で楽しませて欲しいです。
https://25jigen.jp/interview/42653

声優と俳優の違いとか化学反応とか仰ってたんですが最早それも目新しいものでは無いと思います。
というかどちらも俳優業じゃないですか。
シームレスに活躍なさってる方って多いし「私の頭の中の消しゴムとか観たことある?」と思っちゃいました。
そりゃ、キャラクターの作り込み方の違いはあるでしょう。でもそれ板の上に乗る頃には完成しているのだからバックステージで楽しんでるスタッフの自己満足で語られるの本当に呆れてしまいました。

原作がボードゲームでルールの部分が難しかったからとかじゃなくて、本当に単純に「今なんて仰いましたか?さっきなんて言ってましたっけ?」の連続だからつまらないんです。
忌憚のない感想を知りたいところですが、友人や家族を招待するほど貴族では無いので残念です。だってチケット代が高いんだもの。
ねぇ知ってる?人の本音は最後の言葉に出るんだよ